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今月の一冊⑧『小さな会社の人を育てる人事評価制度のつくり方』

初めてこのカテゴリーでコラムを書きます、マーケターの高宗です。今回私が紹介するのは、「小さな会社の人を育てる人事評価制度のつくり方」です。本書では中小企業で理想の組織ができる「ビジョン実現型人事評価制度」という仕組みづくりと、その実践方法について解説してあります。中小企業において、少子高齢化に伴いこれまで以上に人材の重要性が高まっています(ちなみに、著者はあまりにも人材が重要なので人は財産であるという意味で「人財」と言っています)。ただ、人の問題は常に中小企業の経営者の悩みの種です。この本を読むことで、社員の成長、会社の成長をどう仕組み化していくかの課題解決の1つのヒントになるのではないかと思います。中小企業の経営者や幹部の方々に手に取ってほしい一冊です。

 

著者紹介

山元 浩司 氏 (日本人事経営研究室株式会社 代表取締役)

10 年間を費やし、1000 社以上の人事制度を研究。理念とビジョンを実現するための人材を育成する「ビジョン実現型経営計画」を開発。独自の理論をコンサルティングで展開する。「経営計画」と「人事評価制度」の設計・ 導入から運用まで支援するスタイルが特徴で、社員の納得度が9割を超えるなど、経営者と社員双方の満足度が極めて高いコンサルティングを実現。 その驚異的な運用実績が評判を呼び、人材育成や組織づくりに悩む中小企業からオファーが殺到、480 社超のコンサルティング導入実績を誇る。

 

ビジョン実現型人事評価制度の効果

「ビジョン実現型人事評価制度」を運用することで、次のような効果が期待できます。

・将来を担ってくれるリーダーが育つ
・社員全員が経営理念や方針にそって成長する
・ほしい人材が採用できる
・会社のビジョンが実現できる

この制度には「理念やビジョンが社員に浸透する」「人材の成長サイクルが自然と回るようになる」という2つの特徴があります。理念やビジョンが浸透すれば、社長と社員全員が同じ目的、目標に向かって仕事に取り組めます。また、人材の成長サイクルが回っていくことで、社員は成長意欲をもって、自ら学び、課題にチャレンジしながら成長します。そして、それが会社の成長にもつながります。では、「ビジョン実現型人事評価制度」を作るにはどうしたらいいのかを割愛しながら述べていきていと思います。

 

人事評価制度の定着を阻害する3つの理由とその対処法

経営者が人事評価制度の導入を決めると、必ずと言っていいほど異論が噴出するものです。現場から後ろ向きな発言や、単純な文句などネガティブな声が高まり、最終的に導入を断念してしまうなど、これは中小企業の現場“あるある”と言える光景です。しかし、著者は「不満が出ない人事評価制度改革はない」と述べています。「最初から全員が納得いく評価制度はない」としたうえで、1つ1つ問題をクリアにして、解決しながら定着させていくいくものだと断言しています。

人事評価制度の定着と成果を上げることを阻害する要因はどこから上がるのでしょうか?本書では以下の3つがあげられています。

1、評価者(リーダー)の不満
2、社員の不満
3、評価結果や賃金制度が活用できない

では、1つずつ見ていきましょう。まずは「評価者(リーダー)の不満」です。中小企業のリーダーはほぼ例外なくプレイングマネージャーであり、個人で売上目標を課せられつつ、チームマネジメントを行い、さらに評価までとなると…正直な気持ちは「自分のことだけで精いっぱい」です。この状況の対処法は、「評価制度=人材育成の仕組み」という意識付けをリーダーに徹底することだと著者は言っています。また、もう一つ重要なことは、「評価制度=給与や賞与を決める一つのプロセス」という認識をなくすことです。評価制度は何のためのやるのか、その入り口を定義する必要があります。

続いて、「社員の不満」です。「こんなことやってもムダだろう」「自分の評価がこんなに低いのはおかしい」といった声が上がるかもしれません。しかし、そうした不満は、水面下でくすぶっていたものです。自社の成長に必要なヒントが隠されているので、1つ1つ余裕をもって対処していきましょう。

最後は「評価結果や賃金制度が活用できない」です。評価制度を運用してみたものの、昇給や賞与の額は結局経営者が決めているというパターンです。また評価結果に対して妥当性が得られないということもよくあります。仕組み化してそれを回していても、定着をしないのは、納得度が低いからです。これについて著者は、1、2回の運用では、経営者の考える理想の評価制度運用と、社員側が納得できる運用を一致させることはできないと指摘しています。

 

ビジョン実現シートについて

人事評価制度を作る上で、最初にやる事は「ビジョン実現シートを作成すること」であると著者は述べています。ビジョン実現シートを作る上で以下の11の項目を考えていきます。

  1. 経営理念
  2. 基本指針→経営理念を実現するための「会社の」姿勢・心構え
  3. 行動理念(行動指針)→経営理念を実現するための「社員の」姿勢・心構え
  4. ビジョン→5年後の会社の姿。数字で表せる定量的なビジョンと定性的なビジョンを用意する
  5. 事業計画→事業計画は別途作るが、ビジョン実現シートでは現時点と3年後と5年後の主要な数字(売上、経常利益、経常利益率等)を記載
  6. 経営戦略→事業計画で掲げた数字を達成するための具体的な方法・仕組み
  7. 現状の人材レベルの確認
  8. 5年後の社員人材像を明確にする
  9. 7と8のギャップを埋めるための具体的な方法
  10. 人事理念
  11. プロジェクトコンセプト(個々のプロジェクトの目標を明確化したもの)→社員がわくわくするものであるべき

 

この本が秀逸だと言われている点の1つがこれら1〜11の構造が非常にロジカルだということです。1があり、1を実現するために2を考える必要があるということで、続いていき、経営計画書の位置付けにある内容(1〜6)が最初に決まることで、7〜11の人材育成計画にあたる内容が明確になる。つまり、「ビジョン実現シート=経営計画書+人材育成計画」という関係です。そして、これがベースとなり次の人事評価制度に続いていきます。

 

引用:「小さな会社の人を育てる人事評価制度のつくり方」よりビジョン実現シートの例

 

ビジョン実現シートをベースに人事評価制度を作る

次が人事評価制度を作るステップです。人事評価制度の項目は以下の4つです。

  1. 業績項目→業績に直結する数値にあたる評価軸となります。個人の営業売上などがこの項目にあてはまります。
  2. 成果項目→業績に直結するが数字では表すことができない評価軸となります。論理的な企画提案がきちんとできたかなどがこの項目にあてはまります。
  3. 能力項目→事業計画通りの業績を実現するために必要な能力、知識、資格などが評価軸となります。例えば、リスティング広告が運用できるかなどがあてはまります。
  4. 情意項目→仕事に対する姿勢、経営理念をきちんと理解しているかなどが評価軸となります。

 

この人事評価制度を以下のステップで完成させていきます。

    1. 経営計画発表会
    2. ジョブヒアリングシート→社員に現状をヒアリングする
    3. グレードと仕事レベルを明確にする
    4. 評価項目を作成
    5. 業績項目を作成
    6. 事業計画を実現するための成果項目を作成
    7. 業績を生み出すために必要な能力項目を作成
    8. 情意項目を作成
    9. 5〜8のウェイトを業種ごとに決める

 

1番に経営計画発表がきていますが、まずは社員に自社の経営計画を認識してもらう必要があります。このステップを飛ばして、人事評価制度を作ろうとする経営者が多いと著者は述べています。このステップをなきにして人事評価制度は作れないとまで断言しています。

 

ビジョン実現型人事評価制度を運用する

作ったら次は運用です。著者は作成:運用=2:8で運用の重要性を説いています。作ったものがすぐに社員に受け入れられることはありません。アンケートという形で社員のフィードバックを受けつつ人事評価項目を改善していくことが重要です。

PDCAサイクル的に、以下の流れで改善していきます。
評価は四半期に1回行なっていきます。

  1. 評価の実施
  2. 評価者同士の基準を揃える「育成会議」
  3. 育成面談
  4. 課題を明確にして次の評価のタイミングまでの目標を決める
  5. 毎月コツコツ面談

 

一般的に評価は6ヶ月ごとに行うことが多いと思いますが、「ビジョン実現型人事評価制度」では3ヶ月ごとの評価を推奨しています。その理由として「適正な評価とするため」「成長スピードを速めるため」になります。よくある事例として、4月に評価するとして、5・6ヶ月前の部下の仕事ぶりをはっきりと覚えおらず、結果、直近の出来事だけで判断して、6ヶ月間の総合的な判断を適正に出来ないという事例が多いと著者は述べています。

 

おわりに

今回は「小さな会社の人を育てる人事評価制度のつくり方」をご紹介しました。著者は中小企業の人事評価制度の取り組みに失敗する要因として「目的が間違っている」「運用に力を入れていない」の2点あると述べています。人事評価制度の目的は「経営計画」の達成であり、これを支える人材育成を推進していく のが「人事評価制度」の役割です。また、「人事評価制度」は導入後、運用を通じて 改善し続けていかなければなりません。この改善に終わりはありません。 人事評価制度を断念、あるいはその運用が形骸化してしまっている中小企業は、この 2点が機能していない可能性があります。思い当たる経営者や人事評価制度に悩まれている方は、ぜひこの本を読んで参考にして頂けたらと思います。

ちなみにこの本を読んで難しかったや、作成する時間がないと嘆いている方は第3者に頼ってもいいかもしれません!弊社はビジョンの作成や人事評価制度を仕組み化するサービスを提供しています。ご興味ある方はこちらのコラムもご覧下さい。

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