コラム

Column

蹞訪 ~有限会社all-get 友口 賀南子さん~

知人の社長様へインタビューをさせていただく「蹞訪」 第6回です。

第1回の「乳菓子屋株式会社 佐藤 憲史郎さん」はこちらから

第2回の「株式会社TAS ART 田崎 新二さん」はこちらから

第3回の「株式会社マスナガ 森 弘国さん」はこちらから

第4回の「株式会社アセット 國元 祐介さん」はこちらから

第5回の「ベトナムトレーディング株式会社 澤村 友里さん」はこちらから

 

「この人の話を聞いてみたい」と思った社長さんへ色々と質問をぶつけさせてもらい、そこから学びを得ていく企画「蹞訪」(きほう)。当社の企業理念でもある「蹞」(ひとあし)は、そういう小さな1歩を大事にしようという想いがありますので、「どうやって事業を成長させたか」というサクセスストーリーよりも、「明日からこれを自社でもやってみよう」と思えるくらいの小さな、細かい取り組みにフォーカスした記事にしていきたいと思います。

 

第6回目のゲストは、、、

第6回目には、有限会社all-getの取締役社長 友口 賀南子さんにご登場いただきました。

 

<企業概要>

熊本市中央区下通の本店、駕町通り店、東区の帯山店の3店舗を展開する居酒屋「おるげんと」や、餃子の製造・販売を行う「中川餃子製作所」を運営されています。別会社で株式会社F.AG(福岡オールゲットの略だそうです)があり、福岡にて「一伍屋」という居酒屋を展開されています。夫である友口義美さんが「代表取締役会長」をされておりまして、妻の友口賀南子さんが「取締役社長」をされています。本記事の中では、代表取締役会長を『代表』、友口さんを『社長(または友口さん)』と記載します。今回は友口社長に取材へのご協力を頂きました。

 

<従業員数>

有限会社 all-get

役員 2名

社員 11名

パート 20名

 

株式会社F.AG

役員 2名

社員 5名

パート 11名

 

<岡村との関係>

私が創業してから参加している「熊本中小企業家同友会」でご縁がありました。経営実践報告例会に報告者として立たれている友口さんの話を聞いて、非常に色々な取り組みをされているし、社員のことを想われているな、と思いました。報告テーマが『右腕(No.2)は社長業で育てよ!』だったこともあり、代表から言われた「自分のことしか考えていない、社員にもっと感謝しなさい」という言葉が印象的でした。前回の蹞訪に引き続き、女性経営者の話を聞いてみたいな、と思っているタイミングでご縁ありまして、ご協力いただくことになりました。

 

 

お題:社員の育成に関して取り組んでいること

まずは創業の経緯から、お聞かせください。

友口 「代表は一流の料亭で働いていました。ハリウッドスターが来日した際に来るような、それはもう一流の料亭です。飲食業に対して誇りを持っていた一方で、自分が身につけた知識や技術をリーズナブルな価格で体感してもらいたいという思いで、2004年に個人事業として創業しました。2年後の2006年に法人化し、有限会社all-getを設立しました。飲食の道を選んだ理由としては、代表の父には料理人になりたいという夢があったことや、親戚に料理関係の方が多かったことがきっかけになったと聞いています。」

岡村 「本題に入る前に、みなさん気になって聞かれることが多いかと思いますが、その・・・夫婦で会社を経営していて、プライベートとの切り替えって難しくないのでしょうか?」

友口 「私は、アパホテルの元谷芙美子さんを経営者のベンチマークとしています。仕事で衝突することはありますが、仕事が楽しいですし、代表のことは尊敬していますので、切り替えはできています。引きずることはないですね~。2019年に社長に就任した際には、経営に関しては私に一任するような感じでした。」

岡村 「社長になられてから、最初に取り組んだことは何だったのでしょうか?」

友口 「代表になった翌年(2020年)からコロナが流行したこともあり考える時間は十分にあったので、経営理念を考えなおしました。理念はあったのですが、伝わっていない感じがしていたので、社員と一緒に見直す作業をしました。また、2004年に創業してから18年目でようやく「ミッション」が無いことにも気づきました。ミッション・ビジョン・経営理念など、会社の幹となる『考え方』の部分を見直せたことは、コロナがあって、自社を見つめなおす時間ができたからではないかと思います。」

岡村 「大変な時期(今もですが)だったと思いますが、そんな中でも前を向いてる経営者・・・。今のお話だけ聞いた時点でも十分素晴らしいです。具体的にはどのようにして理念を体系化したのでしょうか?」

友口 「まずは、代表や私の想いを伝えました。それを、言語化する作業をします。熊本の有限会社all-getの社員11名、福岡の株式会社F.AGの社員5名で、4時間~5時間の会議を3~4ヶ月繰り返し、ようやくできたのがこれです。正社員16名全員で考えました。」

(図1)

 

現在の事業についてお聞かせください。

友口 「現在は、熊本で”おるげんと”を3店舗、福岡で”一伍屋”を2店舗、持ち帰りの中川餃子製作所を運営しています。2004年に創業してから19年になりますが、とにかく売上を上げるために必死にやりました。新メニューの試食会を1ヶ月に1度開催し、お客さんへの付加価値を上げるための取り組みはしてきたつもりです。一番の思い出は2010年に居酒屋甲子園に出て全国で準優勝したことですね。」

岡村 「すごい!社員さんと共に歩む姿勢は前から継続されているんですね。」

友口 「それが、うまくいかないことも多かったんですよ。一生懸命に突き進んできましたが、特に熊本地震があってからは社員のことを考えてペースダウンしてみたんです。例えば、朝5時までだった営業時間を2時までに変更したり、試食会は、店舗営業とは別でやるので準備を含めてかなり大変なので、3ヶ月に1回にしたり。社長として、代表よりも社員の味方でいようと思って取り組んだことです。また、会社方針の説明会をホテルで行ったりもしました。しかし、それでは売上は伸びませんでした。あの時は、一方的な愛を伝えていただけで、社員さんとの信頼関係が無かったんだろうな、と思います。」

岡村 「でも、それだけ社員さんのことを考えられたが故の気づきだったのでは??」

友口 「そうかもしれませんね。今は、先ほども言ったように会社の理念やビジョンを一緒に考え、それにむかって進めるようにしています。この経験がなければ、こうはなっていなかったかもしれません。」

 

将来のビジョンをお聞かせください。

友口 「社会的なビジョンと、社内的なビジョンを掲げています。いわゆる、MVV(ミッション/ビジョン/バリュー)がピラミッド型(※図2)をしているのに対し、弊社は砂時計型をイメージしていただきたいです。理念を中心に、上半分が社会的なビジョンやミッション、下半分が社内に対するビジョンやバリューを表現しています。(※上記図1を参照)」

岡村 「そのビジョンに対して感じている課題はありますか?」

友口 「たくさんありますよ。まずは、all-getグループらしさを可視化できていないな、と思いました。ビジョンの実現に向けたロードマップを作成し、1つずつ課題の解決に取り組んでいます。(※見せていただきましたが、社外秘ということで本記事では写真等での紹介は割愛します)」

(図2)

 

 

ビジョン実現に向けた課題に対し、社員の育成という観点から取り組んでいることをお聞かせください。

友口 「まずは、基本的な戦略や、組織戦略、財務戦略を理解してもらうことから始めました。幹部合宿もする予定です。人材育成こそ最後の砦だと思っていて、企業は”人”です。従業員は、地域で一番のお客さんだと思っています。毎月、給与明細と一緒に手紙を渡すようにしています。」

 

岡村 「アルバイトさんを含め、全員にですか?すごいですね!」

友口 「前は手書きだったのですが、さすがに人数が多くなってからはパソコンを使っています。内容は、毎月変えていますよ。あとは、前はお食事券でしたが、社員の誕生日には自社の取り扱い商品のカタログをプレゼントしています。これには、手書きの手紙を添えています。」

岡村 「いや~、弊社は私以外に5名ですが、そこまではできていません。社員さんとのコミュニケーションを大切にされていることが伝わります。」

友口 「コミュニケーションでいうと、ブラザーシスター制もやっています。上司にあたる社員と、部下の社員にコミュニケーションを取ってもらうための、食事代などを補助する制度です。月額で上限はありますが、どの社員とどのようにコミュニケーションを取るかは上司の采配に一任しています。一応、どのような話をしたのかというザックリした報告だけは聞いていますが、『最近、元気がなかったので誘ってみたら、プライベートで悩んでいるようだったので聞いてあげました』というレベルの報告で、内容まではあまり深掘りしません。」

岡村 「ほかに何か取り組まれていることはありますか?」

友口 「クリスマスには、サンタ企画ということで、社員さんの子供にトイザらスカードを渡したり、Amazonのブラックフライデー前にはAmazonギフト券を配ったりしています。以前、識学を導入していた時期があって、仕組みを作って組織の運営をしていくべきだと。コミュニケーションは最後の砦だということをその時に学びました。」

岡村 「仕組みというと、どうしても冷たい印象になってしまいますが、社員さんの家族まで幸せにしようとする姿勢が無いと出来ない仕組みだと思います。凄すぎます。」

 

熊本マーケティング研究所に対して一言頂きました。

岡村 「せっかくの機会なので、当社にも何か一言いただけたらと思います」

友口 「マーケティングに関しては、苦手意識がある方が多いように感じます。当グループは福岡にも店舗があるので、福岡で開催される勉強会にも参加しますが、女性の参加率が高いように感じます。熊本だと、そのような勉強会には男性の参加者が多い印象です。女性経営者もマーケティングを勉強しやすいようにハードルを下げていくことを熊本マーケティング研究所さんには期待したいです。また、経営者側では参加したくなるようなリテラシーに育っていくことが求められていると思います。」

岡村 「ありがとうございます。熊本にマーケティングの裾野を広げるということをミッションに、熊本マーケティング研究所の前身となる勉強会組織は誕生しました。今一度、創設の際のミッションに立ち返るタイミングなのかもしれませんね。」

 

感想

今回の取材では、社外秘となる取り組みまで見せていただきました。本記事には書けませんでしたが、個人的には非常に学びの多い時間となりました。また、取材後には、当社主催の勉強会(9/10開催)への参加を申し込んでいただきました。最後の一言でいただいた『経営者側では参加したくなるようなリテラシーに育っていくことが求められている』を、さっそく有言実行されていて、すごい方だなと改めて感じさせられました。先述した、同友会での実践報告例会では、2019年に社長に就任してから、社員さんとの関わり方を変えるため、まず自分を変えた。とおっしゃっていました。例会でお聞きしていたので今回の取材では話をしていただかなかったのですが、私を含め、経営者が肝に銘じなければならないことだと思いますので、少し感想が長くなってしまいますが、お伝えできればと思います。

<バッドサイクルからグッドサイクルへ>

●専務時代(~2018年)

  結果(売上)を求める

     ↓

  行動(繁盛店の真似)をする

     ↓

  思考停止状態

     ↓

  社員との関係が悪くなる

 

●社長になってから(2019年~)

  社員との信頼関係を改善(私のトリセツ)

     ↓

  思考が変化(学ぶ意識や相手への思いやり)

     ↓

  行動が変化(考えて動くように)

     ↓

  結果が変わる(売上が増える)

 

詳細は友口さんから直接聞かれた方が伝わると思いますので割愛します。

最後に、最初から最後まで高い熱量で取材に応じて下さった友口さんに感謝をして、結びたいと思います。