コラム

Column

蹞訪 ~株式会社アセット 國元 祐介さん~

知人の社長様へインタビューをさせていただく「蹞訪」 第4回です。

第1回の「乳菓子屋株式会社 佐藤憲史郎さん」はこちらから

第2回の「株式会社TAS ART 田崎新二さん」はこちらから

第3回の「株式会社マスナガ 森 弘国さん」はこちらから

 

「この人の話を聞いてみたい」と思った社長さんへ色々と質問をぶつけさせてもらい、そこから学びを得ていく企画「蹞訪」(きほう)。当社の企業理念でもある「蹞」(ひとあし)は、そういう小さな1歩を大事にしようという想いがありますので、「どうやって事業を成長させたか」というサクセスストーリーよりも、「明日からこれを自社でもやってみよう」と思えるくらいの小さな、細かい取り組みにフォーカスした記事にしていきたいと思います。

 

第4回目のゲストは、、、

第4回目には、株式会社アセットの代表取締役 國元 祐介さんにご登場いただきました。

 

<企業概要>

熊本市南区城南町にて、建設機械のレンタルや販売をされています。1991年に現会長の國元 務 氏が創業し、約30年の歴史がある企業です。本体の「株式会社アセット」、工事部門を分社化した「株式会社アセットファンテック」、そして3月よりグループ会社となった「株式会社堂上エンジニアリング」の3社で”アセットグループ”として事業を行われています。今回は本体の会社である株式会社アセットの3代目として2022年4月に事業承継をされたばかりの國元社長に、今までの歴史とこれからのビジョンについてお聞きました。

 

<従業員数>

株式会社アセット

役員 4名

社員 15名

パート 6名

 

株式会社アセットファンテック

役員 3名

社員 12名

パート 2名

 

株式会社堂上エンジニアリング

役員 4名

社員 2名(株式会社アセットから出向)

パート 1名

 

<岡村との関係>

私が創業してから参加している「熊本中小企業家同友会」でご縁がありました。國元社長は入会9年目ですが、青年経営者部会の部会長をはじめとする役を歴任されており、入会して間もない私を青年経営者部会へお誘いいただいたのが始まりです。本格的には今年度から青年経営者部会の幹事として活動していくことになりますが、学びの機会を頂くことができて非常に感謝しています。

 

 

お題:社員の育成に関して取り組んでいること

株式会社アセットの創業の経緯からお聞かせください。

國元 「私の父が、建設機械のレンタルを行う会社で勤務しており、そこから独立して福岡で創業ました。当時、働いていた会社は建設機械といっても幅広くレンタルを行っていました。父は、その中でも”基礎工事”に特化したレンタルの会社として創業したそうです。」

岡村 「なぜ、基礎工事に特化したのでしょうか?」

國元 「建設業界には大手の会社もありますし、前職の会社を含めて価格競争にならないように、ニッチである基礎工事に特化しました。ニッチだったからこそ、お客様の声を拾うことができ、現在の主力商品であるセメントサイロを作る事ができたと思います。」

岡村 「すいません、建設業界にはあまり詳しくなくて、、、セメントサイロって何ですか?」

國元 「まず、基礎工事とは建物や構造物を建てる際に地盤調査の結果より支持層と言われる地中の硬い層まで杭を打ったり、地盤改良を行い、傾きや沈下を防止する工事のことです。セメントを大量に使うのですが、粉の状態のものを水で溶かして使用します。その粉の状態のものを貯蔵しておくのがセメントサイロです。これ、実はセメントを販売している会社が無料で貸し出しを行ってくれるものなのですが、1つ欠点があるんです。それは”残量が分からない”ということです。職人さんがサイロを叩いて反響する音で判断しているそうで、当社のセメントサイロは残量を計量することができるのが特長です。」

 

将来のビジョンをお聞かせください。

國元 「セメントサイロの全国シェアNo.1を目指しています。先ほども言った通りなのですが、セメントサイロ自体は無料で貸し出しをしていることもありますが”計量できる”というのは利用者にとって大きい利点です。これによって、10年後には全国トップシェアになりたいと考えています。そうやって、人々の生活を足元から支える存在として、基礎工事業界から社会貢献ができればと思います」

岡村 「なるほど、確かに文字通り”足元から”ですね。その想いを社員さんとはどのように共有されていますか?」

國元 「同友会活動の中で経営指針書を創っていましたが、事業承継をするまで社内で共有したことはなかったんです。今年、代表を交代してからようやく社員に対して伝えることができました。私は、大学を出てから飲料メーカーの営業をしていて、別業種からの転職でアセットに入社するのと同じくらいの時期に、会長からの代表交代がありました。私の前にアセットの代表をしていた米原(現・堂上エンジニアリング代表)をはじめとする幹部社員は、会長(父)の前職からの同僚ですので、遠慮があったり、私自身の覚悟が足りていなかったのもあるかもしれません」

岡村 「ということは、これから同友会の諸先輩方も言われている”伝えることの難しさ”や”共有より共感”といった課題が出てくるのかもしれませんね」

國元 「現在の経営幹部に対してもそうなのですが、それよりも私は次世代の経営陣、幹部社員をより意識しています。会長や前述の米原はもう60歳を超えていて、10年後のビジョンを達成する為には、私より後に入ってきた社員への共有や共感を大事にしていきたいと考えています。熊本、鹿児島、福岡の3拠点の営業所の責任者はまだ30代と若く、一緒にアセットグループの次世代を担っていきたいと考えています。」

 

ビジョン実現に向けた課題はありますか?

國元 「”セメントサイロの全国シェアNo.1”というビジョンを掲げた時、同友会のある方から”何個ならNo.1なの?”と聞かれ、答えることができませんでした。現在は約60機を有していますが、あとどのくらい増やすことが出来れば全国シェアNo.1なのか、そこに具体性が無かったのは私が成長しなければならないところだと感じました」

岡村 「代表の成長は会社の成長に不可欠だというのは皆さん言われますよね。確かに、明確に数値目標を立てないことには全国シェアNo.1と言えませんもんね。今回のテーマが”社員の育成について”なのですが、ご自身以外の事で何か課題に感じられていることはありますか?」

國元 「やはり、人の問題だと思います。全国シェアNo.1にする為には、現在の熊本、鹿児島、福岡の3拠点以外にも営業所を作ることになります。おそらく現在の営業所の責任者に新拠点に行ってもらうことになり、今の拠点に新しく責任者を据える形になるかと。今のところ、毎年のように新卒を採用していますが、現在の社員の成長だけでなく、新しく入ってくる社員を育てる環境が作れなければ、ビジョン実現は難しいと感じています」

岡村 「日本全体が少子高齢化で労働人口が減少していく中、建設業界は特に人材確保が難しいと言われていますが、いかがでしょうか?」

國元 「日本の労働人口が減っていることに対しては外国人技能実習生を受け入れることや、省人化をすることで対応していこうと思っています。建設業界のことでいうと、工法や設計の進歩で杭が大型化したり、小型化したりしていて、そこへの対応もしていかなければなりません。ビジョンは、①社員が誇れる会社にするため、②社員の給与や役職を上げるため、③地域社会のため(基礎工事業界の発展)にも必ず達成したいと思っています。基礎工事を支えていくことで、人々の生活と安全を守るのが、当社の使命だと考えています。」

 

ビジョン実現に向けて、どんな取り組みをされていますか?

國元 「四半期に1度、営業所MTGを実施しています。これは、営業所で働く社員と、役員との情報交換です。営業会議というよりは、理念やビジョンなどの”想いの共有”を目的としています。経営理念の『お客様の役に立つ企業として、地域社会に貢献する』という言葉を伝えるのではなく、”役に立つ”とは商品の先にある”感動を届けること”という意味や解釈をしっかりと共有できればと思っています。」

岡村 「社訓の『勇気 知恵 努力』もそうですか?」

國元 「『勇気とは、物事を恐れない強い心』『知恵とは、事の道理や筋道をわきまえて、正しく判断する心』『努力とは、心をこめて事にあたること』 この3つは大切にしています。また、各社員が主体的に考え、動く会社にしていく為には、まず自分は言葉ではなく行動で示すことができればと思っています。そうしていくうちに、社員を巻き込んでいくことができるんじゃないかと。」

岡村 「私はまだ、言葉で伝えようとしているのかもしれません。行動で示す、勉強になります。」

國元 「あとは、月に1度の責任者会議をすることにしました。各営業所の所長と役員で行います。これは営業状況や進捗の確認がメインです。顧客の情報を共有できるようになり、当社が創業時から大事にしている”顧客の声を聴く”ということができ、経営に活かせていると思います」

岡村 「社員さんの育成に関してはいかがでしょうか」

國元 「平均年齢は36歳で、入社5年未満の社員が11名いることから、年に1度、前代表の米原が若手社員向けに行う”米原塾”を行っています。これは”教育”ですね。他には、同友会の社員共育大学や、中小企業大学校などで”共育”に取り組んでいます」

 

熊本マーケティング研究所に対して一言頂きました。

岡村 「せっかくの機会なので、当社にも何か一言いただけたらと思います」

國元 「何度か同友会の例会でもグループ討論をしたし、今日もこうやって来てもらっていますが、イマイチ何をしている会社なのかがピンとこないですね。分かりやすい自己紹介(自社紹介)があった方がいいかもしれませんね」

岡村 「それ、いつも困ってたんですよ!同友会のグループ討論の際に、最初に自己紹介をするじゃないですか?その時に何て言おうか考えます、、、」

國元 「”何屋さん”というのが分かりやすい方がいいと思います。当社も、”基礎工事に特化した建設機械のレンタル会社”ですが、業界がニッチなこともあり、言い切るようにしています」

岡村 「私も、同友会ではそのように聞いていましたが、本日お話を伺ってみると、建設機械の販売もしていますし、工事もされています。それを大きく括って”基礎工事の専門会社”というように丸めてしまうと、何をしているか分かりにくくなりますね。当社も、分かりやすい自己紹介ができるように考えてみます」

 

 

感想

一番印象に残ったのは、同友会活動で色々な学びがありながらも、社内で共有するようになったのが社長になられてから、という点で、すごく意外でした。事業承継の難しさ、既存事業や承継前の経営陣とのバランスなど、承継者ならではの難しさや葛藤を感じずにはいられませんでした。私は創業者として会社の進む方向性を決めましたが、20年後、もしも承継したいという人財が社内にいてくれたら、同じような葛藤を持つのだろうな、と遠いようで近い将来を考えてしまいました。

そして、本編には詳細まで書くことができませんでしたが、会長(父)が創業した際に出資をしてくださった方々がいたこと、前職の社員が次々に転職をされて入社されたことなど、やはり創業者のカリスマ性というか、人間性を感じました。まだ、トイレ掃除の話や、”巻き込み力”など、書きたいことは盛りだくさんでしたので、もし気になる方は何かの機会に、國元さんから直接聞いた方が良いかと思いました。

最後に、2時間超の取材となったにも拘わらず、ちゃんと目を見て自分の言葉で話をして下さった上に、取材後に社内を案内して頂きました國元さんに感謝して、結びたいと思います。