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Column

長州力というブランド

”長州力”

この名前を聞いて、みなさんはどのようなイメージを持たれますか?
最近は、バラエティー番組にも引っ張りダコでお笑い芸人よりも笑いを取るコメディアンのような立ち位置ですが、若かりし頃から日本のプロレス業界をけん引してきたレジェンドプロレスラーでもあります。

みんな大好き長州力がなんと日本経済新聞社が発行する消費・流通・マーケティング専門誌『日経MJ』にも登場するほど日本の経済を動かしているので、今回のコラムは長州力というブランドを分析してみます。

 

長州力のプロフィール

まずは長州力のプロフィールを簡単に紹介します。
本名は吉田光男。山口県で在日韓国人2世として生まれ、2016年に日本に帰化しています。
中学時代の柔道を経て、高校からレスリングをはじめ、高校から大学時代にレスリングで全国に名が馳せます。大学4年生時には全日本選手権で優勝!!
大学卒業後、1974年に新日本プロレスに入団後、ミュンヘンオリンピックではグレコローマン100kg超級に出場しました。このころからメディアにも露出するようになり、スーパースターとしての人生を歩みだします。
プロレスデビュー直後は本名の吉田光男がリングネームでしたが、1977年から”長州力”と改名します。
ちなみに長州力というリングネームはワールドプロレスリングの番組内で公募され、応募の中から採用されました。山口県出身ということもあり、”長州”藩とプロレスラー”力”道山に由来しています。

 

プロレス時代の事件とテレビ

プロレスラー時代は、バッグドロップ・サソリ固め・リキラリアットを得意技とし、特にサソリ固め・リキラリアットは彼の代名詞ともいえる技になっています。プロレスラー長州力をご存知の方のほとんどは、『長州力=サソリ固め』『長州力=リキラリアット』をイメージするくらいの代名詞となっています。
しかし、プロレスラーとして駆け出しの頃はオリンピック出場という肩書はあっても、華やかさに欠け無骨な長州は人気がないプロレスラーでした。
その後、彼は人気レスラーへの階段を登りはじめるのですが、その大きな要因には『事件』と『時代』が大きく関わってきます。

入団した新日本プロレスはテレビ朝日のテレビ番組『ワールドプロレスリング』で毎週ゴールデンタイムで包装されており、視聴率20%を超え新日ブームが訪れます。そのような状況の中で、同世代だが人気・実力ともに格上の藤波辰爾に対してリング上でマイクを使い「藤波、俺はお前の噛ませ犬じゃない」と発言(俗にいう噛ませ犬発言)したことでブレイクし、お茶の間にも『長州力』の名前が広がるきっかけとなります。

その後、当時の新日本プロレスの体制に反旗を翻して『革命軍』後、メンバーを増やし『維新軍』を結成するなどプロレス界の震源地となるような活動をしていきます。個人的にも藤波辰爾と『名勝負数え唄』と謳われる連戦を繰り広げ大人気カードととなり、時代の寵児的な存在へとなります。
新日本プロレスを退団後、ライバル団体の全日本プロレスに参戦するタイミングで今度は全日本プロレス中継がゴールデンタイムに復帰したことで、当時絶大な影響力をもっていたテレビというメディアの中において、長州力はどのプロレスラーよりも長くゴールデンタイムに出続けることができたと言えます。

 

長州力の「キレちゃいないよ」

1995年東京ドームで安生洋二との試合後に、安生に対する怒りを抑えながらも記者会見に臨んだ長州とアナウンサーとの間でなされたやり取り。
アナ「長州さん、キレたんですか?」
長州「ああ?」
アナ「キレました?今日は?」
長州「キレちゃいないよ」
この部分を切り取って、くりーむしちゅー有田や長州小力がモノマネをしたことで大ブームになりました。

 

プロデューサー長州力

長州は再び新日本プロレスに復帰すると、プロレスラーとして大暴れし、確固たる地位を築きます。さらに現場監督に就任し選手たちと取りまとめ、マネジメントするなどプロデューサーの立場になり、全国ドームツアー成功、東京ドーム観客動員記録樹立(当時)など新日本プロレス黄金時代を牽引しました。
現場監督時代にもいくつもの事件(またぐなよ事件・コラコラ問答)やエピソードがあり、やはりプロレス界は長州力を中心に回っていきます。
メディアもそれらの事件を面白おかしく取り上げるため、今でも伝説的な事件として語り継がれるほどです。2019年6月26日東京・後楽園ホールで完全引退し、波乱万丈のプロレス人生の幕を下ろしました。

またぐなよ事件
コラコラ問答

 

プロレスラー長州力とは

プロレスはエンターテイメントであるため、メディアの注目を浴びること、話題性を提供することは非常に重要なファクターと言えます。長州力はプロレスラーとして駆け出しの頃から、メディアが飛びつく話題性を定期的に提供し続けることで、プロレスラー長州力としてのブランドを確固たるものとしてきたと思えます。
当然、プロレスラーとして強くなければ話題性も乏しい事件として扱われてしまいますので、何度もベルトを巻くほどのトップレスラーでありながら、事件に巻き込まれ・事件を巻き起こす存在こそが長州力なのであります。

 

バラエティータレントとしての長州力

昔からプロレスラーはバラエティー番組にもたびたび登場することはありましたが、最もバラエティー番組に登場したプロレスラーはアニマル浜口と長州力がツートップではないでしょうか。
特に長州力はプロレスを引退後、バラエティー番組に引っ張りだこです。特徴としては『活舌が驚くほど悪い』『天然キャラ』などが挙げられます。

2012年大晦日の『絶対に笑ってはいけない熱血教師24時』に先生役として登場して活舌の悪さでダウンタウンをはじめとする出演者を笑わせたり、2018年に出演したロケ番組『相席食堂』では「ああ美味い、喰ってみな、飛ぶぞ!」と伝説的なグルメコメントを発し、番組の知名度を一躍全国区に押し上げました。

これまで数々のレポーターや芸能人がグルメコメントをしてきましたが、誰も想像のできないコメントをする長州力というキャラクターは唯一無二と言えます。

 

SNSの長州力

2019年、68歳で突如、Twitterを開始しました。現在は57万人もフォロワーがいるアカウントとなっていますが、開設当初はフォロワーも少なく、プロレス好きが注目しているくらいでした。
しかし、Twitter上で『長州力のTwitterが面白い!』と話題になります。プロレスラー時代と同様に話題性に事欠きません。
ご存知の方も多いと思いますが、Twitter上で話題となった内容としては、

 

①唯一フォローしているのはトランプ大統領(当時)のみ

現在はトランプ元大統領ではなく、前澤友作氏をフォローしています。

 

②「#」を「井」と間違える

スタッフに教えてもらったと思われる「ハッシュタグ」を早速Twitterで使ってみた長州力ですが、ハッシュタグを「ハッシュドタグ」と言い間違えており、ハッシュタグに使う「#」を「井」と間違えてしまいました。これが長州ファンの心をガッチリと捕まえ、長州力を知らない層にも広まるきっかけとなりました。

 

③PR案件なのに商品名も写真も見せない

インフルエンサーとして広告代理店に目をつけられたためか、企業PR案件が入ります。しかし、PR案件にも関わらず、商品名も写真もないツイートがなされ、全くPRになっていませんでした。しかし、失敗といえるツイートのはずが、このツイートが話題になり、注目されることとなりました。

リツート数は何と3万超え、いいね10万超え!!
同日中に再度ツイートされ、無事に商品内容も判明したので、結果大成功と言えます。

PR案件では「商品名を間違える」なんてことはありえないことですが、スポンサー側も長州力に限ってはSNS上で商品名を誤ってつぶやくことを大歓迎しており、新たなマーケティング手法として確立されつつあります。
一時は11社とスポンサー契約を結び、『飛ぶぞ』というキーワードがギャル雑誌の流行語大賞にランクインするなどエンタメ業界でも革命を起こしていると言えます。
その後もYouTubeやTikTokなどのアカウントも開設し、娘婿のマネージャーとのほほえましいやり取りや、孫を溺愛するお爺ちゃんキャラも垣間見え、素の姿を提供することでみんなの注目の的となっています。

 

全世代に愛される長州力

振り返ると長州力という名前は1970年代から絶えずテレビをはじめとしたメディアに露出しつづけていたこともあり、誰もが知っている抜群の知名度となっています。
50代以上の方であればゴールデンタイムに出ていた革命戦士長州力として、30代~40代男性であれば強面のトップレスラー長州力として、女性であればバラエティータレント長州力やものまねさえる長州力、若者であればインフルエンサー長州力として認識していることでしょう。
共通して言えるのはどの世代・性別からも好意的なイメージで持たれており、かつオリジナリティあるユニークな存在として捉えており、それが長州力ブランドに繋がっているのではないでしょうか。
ちなみに自分は子供のころからプロレス好きということもあり、未だにプロレスラー長州力のイメージが強く、バラエティー番組に出演している姿を見ると違和感を覚えてしまいます・・・。