はじめに
熊本マーケティング研究所の高宗です!久々に個人コラムを書いていきます!今回はみんな大好き「シャウエッセン」の新たな取り組みを特集していきます!
「朝食の王様」という肩書きが、逆に首を絞めていた
日本を代表するロングセラー商品「シャウエッセン」ですがこれまで「黄金の3分間ボイル」を絶対の正義としてきたこのブランドが、今、大きな転換期を迎えています。あえて「焼いて食べる」ことを推奨した新商品『夜味』のヒットにより、売上高は過去最高を記録しています。ちなみに「シャウエッセン」は焼いて食べたらダメということは今まで全然知りませんでした……シャウエッセンといえば、誰もが「朝食の風景」を思い浮かべます。これこそが最強のブランディングでしたが、それが限界を作っていました。共働き世帯が増え、朝食を抜く人が増える中で、「朝食専用」というイメージは市場を狭める足かせにとなっており、実際、30〜40代の男性層という、最も肉を消費する層が「シャウエッセンは朝のもの」という認識しており機会損失となっていました。そこで放たれたのが「夜味」です。あえて「焼き」を推奨し、味を濃くする。これは単なる新商品ではなく、「朝の食卓」から「夜のビールのお供」へ、新たな市場開拓となる一歩でした。

若年層という空白地帯へのアプローチ
シャウエッセンの最大の課題は、ファン層の高齢化でした。「ボイルして朝食に食べる」というスタイルは確立されていたものの、30〜40代の男性や、夜の食卓シーンにおいて、その存在感は決して高くありませんでした。ここで取った戦略が、「ボイル至上主義」というタブーを破ることです。「夜味(よるあじ)」の投入により濃いめの味付けで「焼き」を前提とすることで、晩酌や夜食という新しい市場を創出。ターゲットを朝の「主婦・ファミリー層」から、夜の「現役世代・男性層」へと軸足を広げたことで朝だけでなく夜の市場を開拓して売上を拡大させました。

自虐を武器に変えた「焼き調理解禁」のSNS戦略
今回、最も秀逸だったのは、社内のタブーをそのままプロモーションのネタにした点です。「焼くべからず」と公言しておきながら、社内アンケートをとってみると、なんと役員・社員の88%が「実は家で焼いて食べていた」という。この「建前と本音」のギャップを逆手にとってSNSで発信したことで、「えっ、焼いちゃいけなかったの?」「俺も焼いてた!」と消費者の共感を一気に呼び起こしました。上からの「押し付けの正解」ではなく、「実はみんなやってました」という人間味のある告白。この親近感こそが、若年層との心理的距離を縮める決定打になったのは間違いありません。

守るために破るという覚悟
開発担当の加藤さんの言葉が印象的です。「シャウエッセンは制約も多い。そこをどう守り、どう破って広げていくか」マーケティングにおいて大切なのは、目的意識です。今回の「夜味」は、ただ味を濃くしただけではありません。フライパン一つで夕食を済ませたいという現代のライフスタイル(消費者行動)に徹底的に寄り添った結果、必然的に「焼き」と「濃い味」に辿り着いたのです。結果として、新商品だけでなく「通常のシャウエッセン」を夜に食べる人も増えたというデータは、ブランド全体を広げることに成功した証です。自社に置き換えた時に、「昔からこう決まっているから」「これがうちの正解だから」という暗黙の掟はありませんか?その掟は、今の消費者のリアルな姿とズレていないでしょうか。 「実はみんなこうしている」という現場の真実の中に、次の大ヒットのヒントが隠されているかもしれません。シャウエッセンが40年目に見せた、なりふり構わない「自己否定」と「再定義」は、守りに入りがちな私たちのビジネス拡大の大きなヒントになったのではないかと思います。
最後に
今回のシャウエッセンの事例を、マーケティングの基本である「4P」の視点で整理してみると、以下のようになります。
Product(商品) :「パリッ」とした最高の食感はそのままに、夜に合う「濃い味」を開発。長年の「味を変えない」というルールを捨て、今の時代が求める美味しさに変更。
Price(価格) :「朝のついで」ではなく「夜の主役」として価値を再定義。安売りされがちな朝食マーケットから脱出し、納得して選んでもらえるブランド力を維持。
Place(場所・機会): 売る場所はスーパーのままですが、食べる時間を「朝」から「夜」へと広げ、今まで手に取らなかった層へと市場が変更
Promotion(売り方): 「実は社員もこっそり焼いてました」という本音を公開。メーカーの「建前」を捨てた正直なメッセージが、SNSで多くの人の共感を呼ぶ。
このように、4つの要素が「夜の食卓」という一つのゴールに向かってバラバラにならず、完璧に組み合わさったことが成功した秘訣ではないかと思います。
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