コラム

Column

今月の一冊⑲「Why型思考トレーニング」

”やる気スイッチ”どこにある?

 

仕事をしているとこういうことを感じることはありませんか?

「言われたことを、ただこなすだけの日々」
「なんか、毎日モヤモヤする」
「もっと仕事に熱中したいけど、何かが足りない…」

もしそう感じているなら、それはあなたの「やる気スイッチ」が見つかっていないだけかもしれません。近年のAIの発達によって、我々の仕事の「What(何をやるか)」の部分をどんどん肩代わりしてくれる今、私たちは「なぜそれをやるのか(Why)」という、もっと本質的な問いと向き合う必要が高まっています。
今回、紹介する『Why型思考トレーニング: 自分で考える力が飛躍的にアップする37問』(著書:細谷功氏)は、まさにこの「Why」を鍛える最強のガイドブックです。
そして、本書で取り上げられている「Why型思考」は、サイモン・シネック氏が提唱する「ゴールデンサークル理論」がベースになっていると感じました。なので、「ゴールデンサークル理論」にも触れながら、あなたが仕事の「やる気スイッチ」を見つけ、AI時代を生き抜く「価値創造者」へと進化する方法を、解説していきます。
ぜひ「言われたことだけやる人」を卒業して、「Why」という光を放つ人に変化するヒントにしてください。

 

 

 

あなたの仕事が「なぜ」つまらないのか?〜ゴールデンサークル理論の核心

 

サイモン・シネック氏の「ゴールデンサークル理論」は、私たちがいかに「What」から入る思考に陥りやすいかを教えてくれます。そして、なぜ優れたリーダーや企業が人を惹きつけるのか、その秘密も解き明かします。

 

 

ゴールデンサークルの「3つの層」と「WhyなきWhat病」

ゴールデンサークルは、3つの同心円で構成されます。

・What(何を): 私たちが「何を」しているのか。(製品、サービス、職務内容)
・How(どうやって): 私たちが「どのように」それをしているのか。(プロセス、独自の強み)
・Why(なぜ): 私たちが「なぜ」それをしているのか。(目的、信念、大義、存在意義)

多くの企業や個人は、一番外側の「What」からコミュニケーションを始めます。「私たちはこんな製品を作っています(What)」「こんな機能がすごいです(What)」。細谷氏はこのことを「WhyなきWhat病」と指摘しています。

・What型思考: 「この資料を作れと言われた(What)」→「こうやって資料を作る(How)」→「…なぜ作るんだっけ?(Whyが不明確)」
・What病の怖さ: 目的(Why)が見えないまま作業(What)に突入すると、モチベーションが上がらないだけでなく、想定外の事態に柔軟に対応できません。そして、最終的には「言われたことだけやる人」になってしまいます。

AIは「What」と「How」の効率化は得意ですが、「Why」を見出し、それに基づいて「What」と「How」を再定義することはできません。だからこそ、人間の「Why型思考」が決定的に重要になるのです。

 

 

なぜ「Why」から始めると人は動くのか?~脳科学的アプローチ

シネック氏は、人が「Why」に強く反応する理由を、脳科学の観点からも説明しています。

・「What」と「How」: 脳の「大脳新皮質」が反応します。ここは論理的思考や言語を司る部分で、情報処理はできても、行動を促す「感情」とは直結しません。
・「WHY」: 脳の「大脳辺縁系」が反応します。ここは感情、信頼、意思決定を司る部分で、「直感」や「行動」を司る本能的な領域です。

だから、「Why」を明確にすることで、あなた自身の「やる気スイッチ」が入り、周囲の協力も得やすくなるのです。

 

 

 

あなたの仕事に「Why」を見つける!〜ゴールデンサークル×Why型思考の実践トレーニング

 

Why型思考は、まさにこのゴールデンサークルの「Why」を見つけ、深掘りするための最強のツールです。

 

日常業務をゴールデンサークルで分解してみよう

普段の仕事で、あなたが「何を(What)」しているかを書き出してみてください。そして、それぞれの「What」に対して、「なぜ(Why)」と「どうやって(How)」を問いかけてみましょう。

どうでしょう?「What」だけに着目していた時よりも、一つ一つの業務に「意味」が生まれませんか?

特に重要なのは、「Why」が明確になることで、その後の「How」や「What」がブレなくなることです。目的がはっきりしていれば、「どんな資料を作ればいいか」「どんな会議にすればいいか」の判断基準が明確になります。

 

 

ゴールデンサークルで「本質」を深掘りする「Whyを5回」

シネック氏の「Whyから始めよ」は、まさに細谷氏の「Whyを深掘りせよ」に通じます。表面的な「Why」で満足せず、さらに奥にある「真のWhy」を探るのが「Whyを5回」の真髄です。

例:自社の商品が売れない時
What: 「商品Aの売上が低い」
Why 1:なぜ売上が低いのか?」 → 「価格が高いから」
Why 2:なぜ高く感じるのか?」 → 「競合品と機能が大きく変わらないから」
Why 3:なぜ機能が変わらないのに高いのか?」 → 「製品設計の思想が古いまま、高機能路線を続けているから」
Why 4:なぜ古い設計思想を引きずっているのか?」 → 「過去の成功体験に囚われ、“顧客が本当に求めている価値(Why)”を見失っているから」
Why 5: 「では、そもそも私たちは『誰に、どんな喜びを提供したいのか?』

ここまでWhyを深掘りすることで、単なる「値下げ(What)」という対処療法ではなく、「ターゲット顧客の再定義」「提供価値の本質的な見直し」という、根本的な「Why」からの戦略転換が見えてきます。
これこそが、Why型思考です。

 

 

 

Why型思考があなたを「リーダー」にする3つの場面

「Why」を明確にすることは、あなた自身の仕事の質を高めるだけでなく、周囲を巻き込み、影響を与える「リーダーシップ」を発揮することにも繋がります。

 

チーム・組織マネジメント:メンバーの「Why」に火をつける

上司としてメンバーに何かを依頼する際、多くの人は「これをやってほしい(What)」とだけ伝えてしまいがちです。

What型指示: 「この資料、明日までに仕上げて。」 → メンバーは「作業」として捉え、言われた通りにこなすだけ。
Why型指示:“顧客の課題を深く理解し、信頼関係を築くため(Why)”に、この資料で彼らの心に響く具体的な成功事例を盛り込んでほしい。期限は明日までだ。」

後者の「Why型指示」では、メンバーは作業の「目的」を理解し、自らの意思で「どうやったら顧客の心に響くか(How)」を考え、主体的に行動します。彼らの内側にある「Why」に火をつけることで、チーム全体のパフォーマンスが劇的に向上し、「指示する人」ではなく「チームを導くリーダー」になれます。

 

 

ゴールデンサークル理論の成功事例に学ぶ「Why」の力

ゴールデンサークル理論を完璧に体現し、熱狂的なファン(ロイヤルティ)を獲得している企業の事例を見てみましょう。

事例1:Apple(アップル)
Appleが新しい製品を発表するとき、彼らはまず「Why」から語り始めます。

もしAppleが「高性能なコンピューターを作っています(What)」から始めたら、多くの競合に埋もれていたでしょう。彼らは”「Why(信念)」を最初に伝える”ことで、顧客の感情(大脳辺縁系)に直接訴えかけ、単なる製品を超えた「ライフスタイル」や「生き方」としての共感を生み出しているのです。

 

事例2:スターバックス
スターバックスは、ただコーヒーを売っている会社ではありません。

彼らの「Why」は「最高のコーヒー豆を使う」こと(これはHowやWhat)ではなく、「コミュニティと居場所の提供」です。このWhyが明確だからこそ、彼らのすべてのHowとWhat(内装、接客、価格設定)が一貫し、高い顧客ロイヤルティに繋がっているのです。

 

 

キャリアにおける「自分の中にあるWhy」の確立

ゴールデンサークルは、企業だけでなく、自分自身がどのようなキャリアを歩んでいきたいのか、強いてはどんな人生にしたいのか、にも適用できます。
「私はプログラミングスキルを身につけます(What)」「私は転職します(What)」だけでなく、”「私はなぜ、この仕事を選ぶのか?(Why)」”を自問してください。
「自分の知識と技術で、誰かの生活を豊かにしたいから」「社会の非効率をテクノロジーで解決したいから」。
この「自分の中にあるWhy」を確立することで、目先のトレンドや待遇に惑わされない、あなただけの揺るぎないキャリアの軸が生まれます。

 

 

 

いますぐ開始!「Why型筋力」を鍛える実践ドリル

本書は、まさに「考える筋肉」を鍛えるための方法が記載されています。一部、トレーニング方法を紹介します。

 

究極の問い「3つのWhy(なぜ)」を口癖に

まずは日常的に、この3つの問いを「仕事の口癖」にしてみてください。

①「Why(なぜ)やるのか?」(行動の目的):このメール、この会議、このタスクは、最終的に何のゴールに繋がっているのか?無駄なら即やめる勇気を持つ。
②「Why(なぜ)こうなっているのか?」(現状への疑問):今の仕組み、このルール、この商品の形。なんでこの形になったんだ?より良い形はないか?
③「Why(なぜ)この結果になったのか?」(結果の原因):成功・失敗、良い結果・悪い結果。表面的な原因で思考を止めず、「その原因を生んださらに深い原因は何か?」を追求し、真の根本原因(Root Cause)を特定する。

 

 

思考を鍛える実践ワーク:逆張りの「もしもWhy」

自分の意見や、会社の常識に対して、意識的に「真逆のWhy」を考えるトレーニングです。

前提: 「うちの会社は、営業は対面訪問(What)が最も効果的だ。」
自分のWhy: 「なぜなら、顧客との信頼関係を築くには顔を合わせるのが一番だからだ。」
逆張りの「もしもWhy」: 「もし、対面訪問こそが、うちの営業を失敗させている最大の原因だとしたら、その理由はなんだろう?
→「単なる訪問が『顔見せの儀式』になり、提案の中身が薄くなっているのではないか?」
→「訪問に時間を使いすぎて、本当に重要な『深い戦略を練る時間』が奪われているのではないか?」

この「逆張り」思考によって、一つの考えに固執する「思考の偏り」を強制的に破壊し、多角的な視点を持つことができます。これは、意思決定の精度を劇的に高めることができます。

 

 

忘れちゃいけない「Why型思考のブレーキ」

ただ、「Why!Why!Why!」と問い続ければいいわけではありません。本書でも注意喚起されていますが、「考えること」自体が目的化すると、仕事は止まります。

目的は行動: Whyを突き詰めるのは、「最善のWhat(行動)」を見つけるため。適切な深さに到達したら、すぐに実行に移しましょう。
相手を尊重: 会議で「Whyハラスメント」にならないよう、相手へのリスペクトは忘れずに。「~という目的のために、この部分について深掘りさせてください」と前置きを入れるなど、伝え方を工夫しましょう。

Why型思考は、「賢く行動できる人」になるためのツールであることを忘れないでください。

 

 

 

まとめ

私たちが陥りがちな「WhatなきWhy病」は、仕事から情熱と主体性を奪います。しかし、ゴールデンサークル理論の中心にある「Why」を明確にし、トレーニングをすることで、その本質を深掘りする習慣を身につければ、仕事は一変します。

企業や製品の「Why」:熱狂的なファン(ロイヤルティ)を生み出す。
タスクの「Why」:作業を「意味のある行動」に変え、生産性を向上させる。
キャリアの「Why」:目先のトレンドに流されない、ブレない人生の軸を作る。

「Why」を問うことは、単なる疑問ではなく、現状への挑戦であり、新しい価値を生み出すための「起動スイッチ」です。ゴールデンサークル理論の成功事例が示すように、「Why」から始まるメッセージは人の心(大脳辺縁系)を動かし、共感と行動を引き出します。
明日から「なんで?」を意識して生活をしてみてください。小さな習慣こそが、「言われたことだけやる人」から「自ら世界を動かす人」へと進化させる第一歩です。
私たち熊本マーケティング研究所も、地域企業の「Why(存在意義)」を深く掘り起こし、その情熱を起点としたマーケティングと補助金のサポートを行っています。
あなたの「Why」を見つけ、情熱と目的を持って行動を始めてみてください。