事業戦略
皆さん、「戦略」という言葉は聞いたことがあるかと思います。事業を遂行する上で欠かせない戦略ですが、そもそもなぜ必要なのでしょうか。1つは、時間と経営資源が有限であるからだと言われています。そのため最適な分配をしていかないと、資金がショートし事業が立ち行かなくなってしまったり、売上構築に時間がかかり成長が鈍化したりします。また、時間も限られているため、すべての取り組みを最初から一つずつ実行するのは現実的ではありません。そのため、どの事業に多くの資源を投下するのかを検討する必要があります。各経営者の方ごとに、考え方は違うと思いますが、利益感度を分析するなど、科学的な手法がいくつか存在します。その中で最も有名なフレームワークの一つが、PPM分析(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)です。自社が展開する複数の事業や製品を「市場の成長性」と「相対的市場シェア」の2軸で分類し、それぞれの立ち位置に応じた戦略を組み立てるためのフレームワークです。
PPM分析とは
PPM分析は、2×2のマトリクスを用いて事業を分析するシンプルなフレームワークです。縦軸には「市場の成長性」横軸には「市場シェア」設定し、自社の事業がどの位置にいるかを分析していきます。図にすると下表のようになります。
そして、図表の通りそれぞれの象限には名前がついており、特徴が下記のようになります。
■花形(Stars)
市場成長率・シェアともに高い。将来の柱となる可能性が高く、積極的な投資が求められます。
■金のなる木(Cash Cows)
市場の成長率は低いもののシェアが高く安定的な収益源となっている事業です。
■問題児(Question Marks)
市場の成長率は高いもののシェアが低い事業です。伸びしろが大きくあるため将来の稼ぎ頭になる可能性を秘めています。
■負け犬(Dogs)
成長率・シェアともに低い。収益性が乏しく、撤退や縮小が検討される領域です。
PPM分析を基にした資源の分配
PPM分析では、自社の事業をマトリクスに分類しそれぞれの特徴ごとに資源の分配方法を決めていきます。図で表すと下表のようになります。
■花形(Stars)
花形に位置する事業では、将来的に金のなる木へ成長させるために、稼いだ利益を自己投資します。市場の成長性が高いということは新規参入や競争が激しいことを意味するため、こうした競争環境を勝ち抜くための取り組みにさらに力を入れます。
■金のなる木(Cash Cows)
金のなる木は安定的な収益性がある一方で、市場の成長性は低いため、将来的には収益を生み出せなくなる可能性があります。そのため、ここで得た収益を他の事業に投資することで、将来の金のなる木を育成する必要があります。特に、将来の成長性が大きいものの厳しい競争に晒されている「問題児」に重点的に投入します。「花形」も投資対象となりますが、まずは「問題児」から投資を進めるのが一般的です。
■問題児(Question Marks)
この象限に分類される事業は、他の事業に投資するのではなく、自己への投資を行います。しかし、シェアが低いため単独では十分な投資資金が得られないことが多く、他の事業からの資源注入を受けて市場シェアを高めていくことになります。
■負け犬(Dogs)
この象限に分類される事業は、撤退あるいは縮小を検討する必要があります。もし完全に撤退した場合は、その事業で使っていた設備の売却益や、事業で使用していた経営資源を「問題児」に投入するといった流れで資源を分配します。
これがPPM分析の基本的な考え方です。ただし、上記はあくまで教科書的な説明であり、実際にどのように資源を配分するかは、会社のMVV(Mission, Vision, Values)や理念、事業の位置づけによって異なります。PPM分析は、あくまで判断のガイドラインとして活用するフレームワークです。
PPM分析の問題点
PPM分析はシンプルなフレームワークで使い勝手が良い反面、問題点が存在します。その中から、いくつかご紹介していきます。
■定性的な情報を加味しきれない
市場成長性と市場シェアという二軸で分けていくため、ブランド力、技術力、顧客ロイヤルティ、企業の文化といった定性的な要素や、将来的な市場の変化の可能性などを十分に考慮することができません。また、市場の切り取り方も難しい検討事項のため、ニッチ市場で強い支持を持っていることなどは見落とされてしまいます。
■事業間シナジーは考慮されない
実際には異なる事業間で技術や顧客基盤、流通チャネルなどのシナジー(相乗効果)が生まれることがあります。PPM分析では、こうした事業間の連携や、ある事業が他の事業に与える良い影響が考慮されないため、全体として最適な資源配分を見誤る可能性があります。
■短期的視点になってしまう
現在の状況を基に判断していくフレームワークのため、現状どのような資源配分が適切かを導くことはできますが、将来的な市場の動向や、競合の参入可能性、技術・消費者の変化などを予測をするという要素は薄くなってしまいます。
まとめ
PPM分析は、事業や製品の戦略を考える際に活用できる便利なフレームワークです。しかし、PPM分析だけで全てを決定してしまうと、考慮すべき要素を見落とす可能性があるため注意が必要です。自社の理念やMVVとの整合性を図り、長期的な視点を持った上で活用することで、強力な手助けとなるフレームワークとなるでしょう。
また、市場の予測や市場の定義などは専門的な知識を要するため、「自社では難しい!」と感じる方は、ぜひ熊本マーケティング研究所までお問い合わせください。