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今月の一冊⑯『わがセブン秘録』

2025年初のコラム投稿となります、マーケターの宮﨑です。少しでも皆さんのためになる情報をコラムでお出しできるよう、頑張って執筆しますので、今年もよろしくお願いします。今回は、学生時代一番影響を受けたといってもいい一冊についてです。この本を読んで「マーケティングをもっと学びたい!」と思うようになりましたし、この本がきっかけでセブンイレブンのバイトをするようになったのを覚えています。

 

今月の一冊

『わがセブン秘録』鈴木 敏文 著。長らくコンビニ業界の頂点、小売・流通の王者として君臨してきたセブンイレブン。そんなセブンイレブン日本法人の初代社長である鈴木氏の本です。日本のセブンイレブンを本当にゼロから作りだし、業界の王者にまで成長させた鈴木氏が書いた一冊です。最近は少しネガティブな話題もあるセブンイレブンですが、その成長譚からはものすごく学びが得られます。今回は、この本と実際にセブンイレブンでバイトをしていた時の体験談を交えてコラムを書いていきます。

 

お客様の立場で考える

本書の中で鈴木氏は「お客様の立場で考える」ということを大事に書かれています。セブンイレブンという巨大企業の話なので、「セブンプレミアム」「セブン銀行」鈴木氏退任後立ち消えになりましたが「オムニチャネル」等、とてもスケールの大きい話が出てきます。しかし、その発想の原点は全て「お客様の立場で考える」というシンプルなものです。本書で記憶に残っているのが、「お客様のために」と「お客様の立場で」は全くの別物であるということを書いている部分です。「お客様のために」は実は売り手側のエゴが含まれる場合があり、実際はお客様にとって不必要な押し付けになっていることがあるということです。例えば、値引です。「安くなればお客様は喜ぶだろう」「お客様のために安く販売しよう」というのは一見正しいように思います。しかし、お客様にとっては安いかどうか以前に、お金を出して買う価値があるのかどうか、という判断が入ります。お客様が求めていない、ニーズを満たしていない商品は「お客様のために」といくら値引きをしたところで売れることは無いでしょう。「お客様のの立場で考える」ということは、「何を見ていて」「何を感じていて」「どんな生活をしているのか」といったことを発想の起点、判断の基準にするということです。本書では例として「セブンプレミアム」に関する話が出てきます。「セブンプレミアム」は、「コンビニでも、スーパーでも百貨店でも同じものを同じ価格で売ろう」という計画が当初からなされていたそうです。しかし、単一ブランドが業態を横断するというのは、ものすごく反対されたとのこと。しかし、「業態」というものが実は、売り手側が勝手に作ったもので、単なる押し付けではないかというのが鈴木氏の考えでした。買う価値があればお客様はコンビニだろうが、スーパーだろうが、百貨店だろうがセブンプレミアムを買うはずだ、なぜなら今の時代は一人の人が、スーパーにも、コンビニにも、百貨店にも行って購買をしているからという洞察がありました。

 

買う価値を高める

セブンイレブンはこの「買う価値」にものすごくこだわる企業でもあると感じています。当たり前かもしれませんが、その当たり前に対しての徹底ぶりがすごいです。最近は変わってきましたが、ひと昔前は頑なに値引きをしないことで少々トラブルになったこと覚えている方もいるのではないでしょうか。なぜセブンイレブンは値引きをしないのか、普通に考えればセブンイレブンは業界ナンバーワンなので、規模の利益を働かせて安く売ることは可能なはずです。ですがセブンイレブンは、上げた利益を商品の価値を高めるために投資する、ということをやるらしいです。「安売りの究極はタダ」そんなところを目指すより、価値を高めることで次もその次も買ってもらおうという発想です。ただ、最近はやりすぎちゃったのか顧客のお財布感の限界を迎えたのか「うれしい値キャンペーン」であったりタイムセールであったりもやっていますが。

 

体験したセブンイレブンの「顧客目線」


セブンイレブンでバイトをしていた中でよく耳にしたのは「機会損失」という言葉でした。廃棄など目に見える損失ではなく、目に見えない損失のことを指す言葉です。バイトをしていたセブンイレブンの店舗ではとにかくこの「機会損失」を嫌う店舗で、よく店長に教えられました。例えば「今日はおにぎり全部売り切ったぞ!」となった場合、普通に捉えると「やったー!」という感想が出てきそうです。しかし、セブンイレブンではそうではありませんでした。「売り切った」ということは「買えなかった人がいるはずだ」という発想をします(僕がいた店舗だけ、かもしれませんが)。皆さんどうでしょうか、疲れ果てた仕事帰りに「今日はコンビニで済まそう」と近所のコンビニに行ったら「おにぎりが無い!」という状況。「1回ならしょうがないかな」しかし2回も3回も続けば「品揃えが悪すぎる!」「あそこはいつ行っても商品が無い」「もう行かない!違うとこに行く!」となります。度々問題に上がる廃棄についてで、サスティナブルの観点からは、もちろん100%正しいとは言えませんが、売れ残りによる廃棄はロスのように思いますが、実は売り切ることによるロスも生じているということです。顧客の目線に立つと廃棄問題も見え方が変わってきます。

 

お客様は努力を買うわけではない

もう一つ心に残っているのは本書の中で登場する、「お客様は一生懸命がんばりました、では買ってくれない」ということです。これも「お客様の立場で考える」ということと絡めて書かれていることです。何か商品を作る場合、会社の中ででき得ることは全てやりきったとします。すると「ここまでやったんだから販売しよう」という感覚になってきますが、これは「自社でできる範囲で頑張りました」という売り手側の押し付けでしかないということです。お客様の立場で考えるなら「どれだけ頑張って作られたか」ではなく「ニーズを満たすものかどうか」この1点のみで評価されているわけです。なんだか非情な話かもしれません。ですが、実際皆さんは今週コンビニに並んだ新商品をいくつ覚えていますか? 残念ながら、今すぐ答えるとなると私も思いつくものがありません。しかし、セブンイレブンで働いていると、毎週本部から大量の新商品情報が流れてきます。100、200商品はあったんじゃないでしょうか。すべてが棚に並ぶわけではないですが、それだけの新商品が投入されているのに、1つも覚えていないし買った覚えもない。ですが売手側に立つとセブンイレブンは2万店以上あり、発注するきはと1個2個ではなく、最小発注単位のロットで発注されることが多いです。つまり、1つの新商品を出すだけでも、とてつもない金額が動くのでその商品がテキトーに作られているとは思えません。きっと担当者はめちゃくちゃ頑張って作っているはずです。しかし、我々消費者は覚えてすらいないことが多いわけです。これは、大学のマーケティングの先生からも「頑張ったことを評価してもらおうと思うな」ということを言われたことがあり、マーケティングにおいて重要な価値観だと感じたのを覚えています。

 

さいごに

こちらの本、セブンイレブンと言えばの「ドミナント戦略」によって日本には巨大な食糧流通インフラが出来ており、災害時にも食糧供給ができるようになっていることや、セブンイレブンの立ち上げ期、ドラマのようなめちゃくちゃな環境から始まったという受難のエピソードもあり、物語としても面白い本です。良かったら手に取って読んでみてください。

本書にある「お客様の立場で考える」というのは我々熊本マーケティング研究所でもマーケティングの基本として大事にしている考え方です。ただ、実際取り組んでみるとお客様の目線で考えるというのは、すぐにできることではありません。どうしても「自社のやり方」「業界のやり方」に引っ張られてしまいがちです。そんなときは、第三者の目線を取り入れてみるというのも一つの手です。熊本マーケティング研究所では、専門知識を持ったマーケターがお客様の目線を持った貴社のマーケティングチームの一員として伴走するサービスを提供しています。ぜひ、熊本マーケティング研究所の「Labout」についても、ご一読ください。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。今月の一冊『わがセブン秘録』についてでした。